1997~2005年までの8年間の活動ながら、2000年以降の邦楽ロックに多大な影響を与えたバンド、スーパーカー(SUPERCAR)。
当時ヴィジュアル系全盛期だった1997年、ソニーミュージックの目に留まった彼らは、シューゲイザーやブリットポップで鮮烈なデビューを果たしました。
中期以降はエレクトロニカに傾倒しますが、キャリアを通じて多くのフォロワー的なバンドを生み出しています。
不仲が原因と言われる解散から10年以上経過しましたが、今なお存在感のあるスーパーカーがシーンに与える影響と、5枚のオリジナルアルバム※のおすすめポイントをまとめました。
※企画盤『OOKeah!!』『OOYeah!!』、オールタイムベスト『PERMAFROST』などのアルバムは除きます。
スーパーカーのアルバムおすすめマトリクス
結論、素晴らしいポップセンスを誇る1stアルバム『スリーアウトチェンジ』と、革新性とポップさを兼ね備えた4thアルバム『HIGHVISION』を聴きましょう。
スリーアウトチェンジ
スーパーカーの1stアルバムであり、シーンに衝撃を与えた作品。
青森出身の20歳前後の若者たちが、最先端の洋楽シーンに匹敵するオルタナティブ・ロックを鳴らしていたことに衝撃を受けたファンも多いはずです。
スリーアウトチェンジのおすすめ度
必聴度 :★★★★★
青春度 :★★★★★
ポップさ:★★★★☆
革新性 :★★☆☆☆
おすすめポイント
『スリーアウトチェンジ』のよさは、スーパーカーの青春が詰まったと同時にオルタナティブ・ロックの名盤ということ。
デビューアルバムという面もありますが、同世代のナンバーガールやくるりと比べ、演奏力は低いのが正直なところです。
しかし、シンプルながら完成度の高い楽曲アレンジやキャッチーなメロディゆえに、演奏の拙さがプラスに働いています。
1曲目『creamsoda』のディストーション・ギターのリフから始まり、邦楽オルタナティブ・ロックのアンセム『Lucky』や歌心溢れる名曲『PLANET』、シューゲイザーテイストが強い『TRIP SKY』まで、CDの収録時間の限界に挑戦した大作となりました。
初期スーパーカーがシューゲイザーか否かをまとめたので詳しくは以下をご覧ください。
19曲を通して聴くのは大変かつ、『TRIP SKY』のように攻めた曲もあるので、ポップさの指標を4としました。
革新性の部分を低めにしましたが、当時デビューしたバンドの中でも絶対的な存在ではなかったように思います。
ただ、中期から後期になるにつれてスーパーカーのすごみを増すので、後ほど詳しく紹介させてください。
スリーアウトチェンジのおすすめ曲
・Creamsoda:Dinosaur.Jr的な疾走感あるオルタナティブ・ロックです。
・DRIVE:アコースティックギターを使ったミキちゃん(フルカワミキ)が歌うギターポップです。
・Greenage:The Jesus & Mary Chaintのような弛緩したギターノイズが印象的。
・Automatic wing:ポップなメロディとアンビエントなサウンドが美しいです。
・Lucky:男女ツインボーカルのみんなのアンセム。歌詞も泣けます。
・My Way:透明感あるアルペジオと疾走感が素晴らしいシューゲイザーな1曲。
・Hello:ゴリゴリに歪んだベースで始まるパンキッシュなナンバー。
・TRIP SKY:約13分の大作。破壊的なシューゲイザーノイズから突然のカットアウトも魅力です。
JUMP UP
前作スリーアウトチェンジと比較し、厳選された11曲を詰め込んだスーパーカーの2ndアルバム。
1曲目『Walk Slowly』のイントロからシンセサイザーの電子音で始まり、「アレ?」と思ったリスナーも多いと思います。
JUMP UPのおすすめ度
必聴度 :★★★☆☆
青春度 :★★★★☆
ポップさ:★★★★☆
革新性 :★★★☆☆
おすすめポイント
『JUMP UP』の魅力は、アルバムが前作スリーアウトチェンジと比較してコンセプチュアルであること。
スーパーカー(ナカコー:中村弘二)はアルバム単位で「実験・完成」のループを繰り返す印象を受けますが、前作が好きなギターロックを詰め込んだのに対し、本作は一定の規則性を感じます。
メロディはポップでありながらアンビエント要素や統一感も強く、アルバム通して聴いても疲れません。
2000年前後のシーンは、バンドサウンドを貫くバンドとエレクトロニカに接近するバンドに分かれていました。
この時代、スーパーカーは完全に後者を選んだバンドです。
とはいえ、後述する『Futurama』以降と比較するとまだバンドサウンドが目立ちます。
JUMP UPのおすすめ曲
・Walk Slowly:電子音とノイズギターの融合が気持ちいい1曲です。
・Sunday People:レトロフューチャー&アンニュイさが最高。程よいチープさも魅力です。
・My Girl:静かなナンバーですが、切ないメロディやアレンジが光ります。
・Love Forever:ピアノサウンドとアルペジオが曲中通して続くアンビエントな曲です。
Futurama
既存の膨大な楽曲ストックを全部破棄して作られたというスーパーカーの3rdアルバム。
前作『JUMP UP』以上にエレクトロニカ色が強くなり、もはやバンドの域を脱した作品となりました。
Futuramaのおすすめ度
必聴度 :★★★★☆
青春度 :★★★☆☆
ポップさ:★★★☆☆
革新性 :★★★★★
おすすめポイント
『Futurama』の魅力はエレクトロニカやダンスサウンドとの融合ではないでしょうか。
初期スーパーカーの魅力である美しいフィードバックギターノイズは残しつつ、同時に2000年前後のトレンドにも乗った世界に通用するアルバムだと思います。
1曲目『Changes』はギターを中心としたインストゥルメンタルナンバーですが、『PLAYSTAR VISTA』ではシューゲイザー的なギターノイズが炸裂。
さらに、4曲目『White Surf style.5』はドラムンベースとシューゲイザーが融合したスーパーカーならではのサウンドです。
全16曲で実験要素も強いアルバムですが、楽曲のクオリティはもちろん、この時期からジュンジの歌詞も洗練されてきました。
11曲目の『FAIRWAY』では「安心を買った 退屈と似てた」など、初期作品と比べるとより哲学的な問いが増えてきます。
なお、安心を買うことに対し、くるりが『ばらの花』でミキちゃんをコーラスに起用し、「安心な僕らは旅に出ようぜ」とアンサー的な歌詞を書いています。
Futuramaのおすすめ曲
PLAYSTAR VISTA:開放弦を使った美しいギターの響きが好きです。
Baby Once More:ギターリフが印象的な男女ツインボーカルのナンバー。
White Surf style.5:ドラムンベースを取り入れた中期スーパーカーの代表曲。
SHIBUYA Morning:ブライアン・イーノ『Music for Airports』にも通ずるアンビエントなインスト。
FAIRWAY:シューゲイザーなノイズギターと四つ打ちバスドラのキュートなダンスナンバー。ミキちゃんのボーカルも最高です。
Blue Subrhyme:スーパーカーでは珍しい変拍子かつコーダイ(田沢広大)作曲のナンバー。
HIGHVISION
スーパーカーの最高傑作と言えばこのアルバムを思い浮かべる人も多い4thアルバム。
前作『Futurama』では脱・バンドサウンドでしたが、本作『HIGHVISION』はさらにその流れを推し進め、完全なエレクトロニカユニットとなりました。
『STORYWRITER』や『YUMEGIWA LAST BOY』など、映画『ピンポン』・アニメ『交響詩篇エウレカセブン』の主題歌や劇中歌にも起用された楽曲も多数収録されているアルバムです。
HIGHVISIONのおすすめ度
必聴度 :★★★★★
青春度 :★★☆☆☆
ポップさ:★★★★☆
革新性 :★★★★☆
おすすめポイント
『HIGHVISON』の魅力は、楽曲のクオリティを追求して極限まで研ぎ澄ませたこと。
実験的処理の多い楽曲群から考えると、スーパーカーのメンバーや制作陣がリスナー・プロデューサーの立場から考える機会が増えたように感じます。
のちに隆盛を極めるポストロックにも通じますが、バンドという手法のみにこだわらず楽曲の質を追求した点が、『HIGHVISION』が最高傑作と言われる所以でしょう。
1曲目『STARLINE』はノイジーなギターながら全面的にエレクトロニカな世界観で始まり、続く『WARNIGBELL』以降はアレンジとしてギターを選択しないケースも増えます。
6曲目『I』はサンプリングした声を加工し、オクターブを上げる大胆な加工をしました。
後半に進むにつれてサイケデリックさを増しますが、聴いたあとの満足度も高く、コンセプトメイクの部分も含めて文句なしのアルバムでしょう。
タイトルや歌詞を読む限り、『HIGHVISION』以降はジュンジ(いしわたり淳治)の言語感覚も研ぎ澄まされています。
現在、作詞家・いしわたり淳治としてのキャリアが形成されている理由も納得です。
ただし、『Futurama』以降はナカコーがメンバーよりプロデューサーサイドとのコミュニケーションが増え、スーパーカー解散に至ったという話もあります。
雑誌『Snoozer』で掲載されていたジュンジサイドの話なので真相は定かではありませんが、最高傑作を作るための制作陣の変化と引き換えに解散してしまったとも言えます。
HIGHVISIONのおすすめ曲
STARLINE:シューゲイザーとエレクトロニカが融合していてかっこいい。
STORYWRITER:コードギターを音響処理でカットするワクワク感が最高。
STROBOLIGHTS:シンセリフとメロディのほか、歌詞が秀逸。未来を感じさせる楽曲です。
I:ボーカルのエフェクト処理などバンドなのにここまでやるのかと驚きました。歌詞もいい。
YUMEGIWA LAST BOY:リバースゲートの不穏なフレーズ。タイトルの世界観も抜群です。
SILENT YARITORI:ミキちゃんのボーカルが甘美。陶酔感のある1曲です。
ANSWER
解散直前の2004年に発表されたスーパーカーの5thアルバム。
ROVOなどで活躍する益子樹がプロデューサー、アートワーク監修に宇川直弘、アルバムジャケットはイラストレーターの田名綱敬一と、豪華な制作陣を迎えて作られました。
世間的評価も低めですが、個人的にも実験タームに入ったスーパーカーのアルバムと感じます。
「今後どこに向かうのか」を想像できない作品が彼らの結論になってしまったのですが、一部では最高傑作という声もあるようです。
ANSWERのおすすめ度
必聴度 :★★☆☆☆
青春度 :★☆☆☆☆
ポップさ:★★★★☆
革新性 :★★★★★
おすすめポイント
『ANSWER』の魅力は、バンドのアレンジ力がキャリアハイレベルまで高くなったこと。
バンドサウンドかエレクトロニカサウンドか、スーパーカーのメンバーが固執しなくなった印象を受けました。
初期と比較するとアレンジの引き出しも広く、エレクトロニカも通過しているので、楽曲を作るときの選択肢が広がったのだと思います。
『RECREATION』はポストロック的な手数多めのドラムとギターフレーズ、『TIME』ではメトロノーム(秒針?)+ピアノのみのアレンジと、大胆な聴かせ方がある点も特徴です。
『GOLDEN MASTER KEY』では、ヘッドフォンで聴いているのにスピーカーから音が出ているような錯覚に陥りますが、音響上の効果も狙っていると感じます。
あまり多く語られることのないアルバムですが、実は『ANSWER』が一番未来的で色あせないアルバムなのかもしれません。
バンド内が空中分解した解散直前にバンドサウンドに回帰する点は、ちょっとビートルズ(The Beatles)的だと感じます。
ANSWERのおすすめ曲
WONDER WORD:バンドサウンドながらクラブ感も強め。パーカッションのアレンジも印象的です。
RECREATION:キラキラしたギターが主体の1曲。浮遊感ある曲調が美しいです。
LAST SCENE:バンドサウンドながらピアノをフューチャーした後期の名曲。
TIME:楽器の数が少ないアレンジ。ミキちゃんの声が切ないです。
スーパーカーの影響の基準
スーパーカーの影響を受けているバンドはどんな特徴があるでしょうか。
ここでは、9つの特徴をまとめました。
スーパーカーの影響9項目
1.男女ツインボーカルであること
2.ベーシストが女性であること
3.バンドにシンセサイザーを加えていること
4.ギターが轟音であること
5.歌詞で言葉遊びをしていること
6.ギターボーカルがテレキャスター使いであること
7.佇まいがシュっとしていること
8.スーパーカーのメンバーがプロデュースしていること
9.スーパーカーファンを公言していること
スーパーカーと比較されやすいジャンル
スーパーカーと比較されるジャンルは以下の通りです。
・ギターロック
・シューゲイザー
・エレクトロニカ
・ハウスミュージック
上記を取り入れたいわゆる“ロキノン系バンド”は、ポスト・スーパーカー扱いされやすいです。
チャットモンチー
2000年に結成、2018年に完結(解散)したロックバンド。
デビューミニアルバム『Chatmonchy has come』からいしわたり淳治氏がプロデュースしており、スーパーカー直系のバンドと言えます。
影響を感じるポイント
『恋愛スピリッツ』の轟音ギターとポップなメロディなど、初期スーパーカー的なソングライティングに通じる部分があります。
『シャングリラ』あたりからは、ポップかつ変拍子や変則的なリズムを交えた卓越したソングライティングで、チャットモンチーの独自色がより強くなりました。
おすすめアルバム
おすすめポイント
チャットモンチーのメロディ、アレンジセンス、歌詞など、すべての魅力が凝縮された1stアルバムです。当然、2ndアルバム以降も傑作曲揃いですが、スーパーカーらしさを考慮して本作を選定しました。 |
the telephones
2005年結成のダンス・パンクバンド。
バンドの顔である石毛輝氏はナカコーを「師匠」と慕っているようです。
また、『A.B.C.D e.p.』ではナカコーがプロデュースを担当しており、こちらも直系バンドと言えます。
影響を感じるポイント
直接的な影響は少ないように感じますが、ロック×ダンスミュージックの組み合わせに影響を感じます。
2000年前後のバンドの多くはダンスとロックを融合させていますが、スーパーカーはとりわけこの融合を進めたバンドでした。
おすすめアルバム
おすすめポイント
他の作品はダンス・パンク的な色合いが強いのに対し、本作はシンセサイザーの主張が強いです。the telephonesのコンセプトである”POP & Hi-Fi”のハイファイな部分が強調されていると感じます。 |
Base Ball Bear
2001年結成の男女2人のツインボーカルによる混声スリーピースバンド。
ナンバーガールに影響を受けたバンドの項目でも紹介しました。
影響を感じるポイント
男女2人のツインボーカルなど、時折スーパーカーの影響を感じさせます。
また『何才』という曲では、初期スーパーカー、特に『creamsoda』的なギターリフ&ノイズを聴くことができます。
高校時代はPLANETというバンド名で、スーパーカーをコピーしていたそうです。
おすすめアルバム
おすすめポイント
小出氏のメロディーメーカーぶりと、XTC直系のひねくれ展開&コード進行センスが如何なく発揮された1stアルバムです。青春ロック色が強い時期で、キラキラしたサウンドにときめく人も多いと思います。
meh meh white sheeps
2015年に結成した大阪のスリーピースバンド。
まだインディーバンドですが、初期スーパーカーのギターサウンドに中期的なシンセサイザーが加わった印象です。
影響を感じるポイント
『スーパーカーシンドローム』というそのものずばりな曲では、MV・歌詞・サウンドまで、初期から後期まですべて聴き込んで来たような印象があります。
クリームソーダ(cream soda)、ラストシーン(LAST SCENE)といった単語が歌詞に出てきます。
「その光が照らす闇を」(STROBOLIGHTS)、「名曲をずっと流してよ」(FAIR WAY)など歌詞のアンサーなど、スーパーカーファンが恥ずかしくなるフレーズ満載です。
さらに、MVで卓球をしている理由は、スーパーカーの音楽を多用した映画『ピンポン』にひっかけていると思われます。
おすすめアルバム
アルバム単位では未確認
スーパーカーの影響を受けたバンドを聴いてみよう
9mm Parabellum Bulletやねごと、NICO Touches the Walls、高橋瞳など、いしわたり淳治・ナカコープロデュースのバンドやアーティストは複数います。
さらに、シューゲイザーやエレクトロニカのジャンルを中心に、スーパーカーの影響を受けたバンドは少なくありません。
フォロワーを見るだけで、スーパーカーがシーンに与えた存在感、ソングライティングのセンスがよくわかります。
本人たちの復活は難しそうですが、ぜひさまざまなスーパーカーチルドレンバンドを聴いてみてください。